保育のこころ

ベネッセ 武蔵小杉第二保育園
園長 市川 通代

「よりよく生きる力の基礎」を育てる

保育園は、子どもにとって『保護者以外の大人と初めて出会う場所』です。だからこそ私たち保育者は、一人ひとりと大切に向き合い、子ども達が心から「愛されている」「安心できる」と感じてもらえる場所にすることが大切だと考えています。そうすることで、子ども達が生まれながらにして持っている「成長したい」「より良くありたい」というエネルギーを、その子らしく存分に伸ばしていけるようになっていきます。
そのために、ベネッセの保育園では乳児期から子どもと保育者が1対1でしっかり向き合い、信頼関係を作っていくことを大切にしています。私たちが子ども達の行動や発言をありのまま受け止め、気持ちを汲み取り寄り添うことで、子ども達は「自分は大切にされているのだ」「自分のことを認めてくれる人がいるんだ」と実感できます。「その子の宇宙が拡がり続けるためのことば(※)」に記されている「ひとっていいな」という言葉にもあるように、子ども達は気持ちが満たされることで自信が生まれ、自分の気持ちを表現することが怖くなくなり、自分の主張を人にしっかりと伝えられるようになります。 私たちが子ども達の『寄りどころ』のような存在になることで、子どもの気持ちは自然と周りに向いて行き、相手のことも大切にできる人になっていきます。1歳児の子どもが、眠そうに横になっているお友達の傍らに座り、トントンと寝かしつけるような仕草をしたり、幼児クラスの子どもが困っている友達に「どうしたの?」と優しく声をかけ、大人の助けがなくても子ども同士で解決していく姿が見られたりするようになります。自分が大切にされながら育っていくことで自己肯定感がしっかりと育まれ、他者にも優しくできる子に成長していくのです。
保育者がそういった環境を作っていくことが、子ども達の「よりよく生きる力の基礎」を育てるうえで、重要だと考えています。
(※)「ベネッセの保育園」の保育実践から生まれた「その子らしく、伸びていく」を支援するための共通言語をまとめた書籍。

「その人らしい保育」がつくる「この園らしい」保育園

子どもたちに向けて掲げる目標が『その子らしく伸びていく』なら、私たち保育者の目標は『その人らしい保育ができる』です。そのためには、保育者同士がそれぞれの強みを活かし、褒め合い、認め合うことが大切だと考えています。
ベネッセの保育園では、年に3回、園長と保育者が面談をする機会があります。そこで、それぞれの強みを活かしていくための目標設定などを行っています。人から見た自分の強みと、自分が思っている強みは、一致していることもあれば違っていることもあります。それらを踏まえて、自分がどんな強みを活かしていきたいかを考え、実際に挑戦してもらえるように目標設定をしていきます。パソコンが得意なスタッフが発信物の作成方法についての研修をしたり、療育に詳しい保育者が子どもの対応についての研修を実施したり、看護師が流行している感染症についての研修をしたりします。お互いの強みを活かし合い、他の保育者にも共有し合う環境を作ることで、お互いを認め合うきっかけになり、保育の質の向上にもつながっていきます。
また、保育者同士でお互いの素敵なところを付箋に書いて、声に出して伝えながら相手にその付箋を渡す「素敵なところ探し」を実施したこともあります。それぞれが「自分では気づかない自分の良さ」に気が付くきっかけになりました。保育園には、異動や中途採用で入ってきた方もいらっしゃいます。様々なバックグラウンドを持った保育者たちが集まる保育園だからこそ、自分たちが経験した良いところを集めて発信していくことで、この園らしい保育園を作っていくことができると考えています。
保育者同士がお互いを認め合うことで、保育者自身も自分を好きになり、自己肯定感を高めていくことができます。そういった環境を作ることで、保育者たちも笑顔になり、その姿を見た子ども達も笑顔になっていく。そんな保育園を目指しています。

保育士はカッコイイ仕事

保育者にはしっかりとキャリアを積んで、保育士としての専門性を高めていってほしいと思っています。保育士の専門性の中でも、「子どもの発達理解」が特に大切だと考えています。保護者の方からご相談を受けて対応策をお伝えする時は、発達を踏まえて子どもの姿をしっかりと理解した上で、伝えられるようなスキルを持って欲しいと思います。例えば「なんでも口に入れて困ります」と相談を受けた時、「まだ小さいから仕方ないですね」と答えるのではなく、その年齢の子どもが何でも口にしてしまう理由を、発達の姿と共に説明できるような保育者の方が、保護者にとっても頼りがいがありますし、「子育てのパートナー」として信頼してもらえると考えているからです。
そのために、様々な研修で知見を広げていくことももちろん大切ですが、日頃から保育者として「カッコイイ」や「美しい」と感じる感性を大事にすることも意識しています。
例えば、食事の時はテーブルの上はなるべく綺麗にしながら食事をするように心がけていれば、子どもたちは自分から汚れたところを拭いたり、落としたものを拾ったりするようになります。日頃から、保育室を美しく整え、保育者が基本的な生活習慣を仕掛けていくことで、子ども達にも自然とその習慣が身についていきます。
こうした取り組みは、子ども達が与えられた環境の中で成長していくことを理解していて、かつ「美しい」と感じる感性があるからこそできることです。だからこそ、保育士の仕事はカッコイイと思うのです。